研究開発

タンパク質の分子認識の理解から新しい薬のアイデアへ

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写真:山下 雄史  山下 雄史(やました たけふみ)

 東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授
 連絡先:yamashita[@]lsbm.org
 個人ページ:http://www.lsbm.org/group_category/tmss/


研究紹介

これまで電子状態計算や分子動力学シミュレーションを活用して、様々な分子の振る舞いを研究してきました。特に、HPCI戦略研究においては薬剤とタンパク質の高精度結合自由エネルギーの予測に関する研究を進めていました。また、抗体医薬品に関わる研究もおこなってきました。最近、MDシミュレーションの解析から、アミノ酸の修飾や変異によって親和性変化がある際に、要因となるタンパク質の構造/揺らぎの変化を見出せるようになってきました。さらに、数理解析・機械学習の技術などを取り入れ、新しい分子設計技術を作りたいと考えています。

画像:抗原ペプチドの硫酸化   画像:抗原抗体複合体
抗原ペプチドの硫酸化
(黄色の球は硫酸の硫黄原子、赤い球は酸素原子、水色の球は炭素原子、白い球は水素原子、青い球は窒素原子)

アミノ酸が硫酸化を受けることで、抗原の形状・運動が影響を受けることがMDシミュレーションで明らかになった。この影響によって、抗体との親和性に変化が生じていると考えられる。
     抗原抗体複合体
タンパク質抗原はROBO1のFn3領域(黄色のリボン)
抗体はB2212A抗体(茶色のリボン)
白い点は周囲の水分子

MDシミュレーションを解析することで、抗原と抗体の界面に残存している水分子が、タンパク質間相互作用に重要な役割を持っていることが分かってきた。


■研究分野
・理論化学
・計算化学
・生物物理学

■研究課題
タンパク質間相互作用

■研究キーワード
タンパク質間相互作用、MDシミュレーション、自由エネルギー計算、構造解析、分子設計、機械学習

主要論文・活動実績
■最近の主要論文
[1] K. Miyanabe and T. Yamashita et al., “Tyrosine sulfation restricts the conformational ensemble of a flexible peptide, strengthening the binding affinity to an antibody”, Biochemistry 57, 4177−4185 (2018),DOI: 10.1021/acs.biochem.8b00592

[2] T. Yamashita, “Toward rational antibody design: recent advancements in molecular dynamics simulations”, Int. Immunol., 30, 133–140 (2018),DOI: 10.1093/intimm/dxx077


[3] T. Yamashita and Y. Takamatsu, “An Ensemble Docking Calculation of Lysozyme and HyHEL-10: Insight into the Binding Mechanism” AIP Conf. Proc. 1906, (2017) 030022,DOI: 10.1063/1.5012301


[4] T. Sakano, Md. Iqbal Mahmood, T. Yamashita, and H. Fujitani, Molecular dynamics analysis to evaluate docking pose prediction, Biophys. Physicobiol. 13 (2016), pp. 181–194,DOI: 10.2142/biophysico.13.0_181


[5] T. Yamashita, A. Ueda, T. Mitsui, A. Tomonaga, S. Matsumoto, T. Kodama, and H. Fujitani, The Feasibility of an Efficient Drug Design Method with High-Performance Computers, Chem. Pharm. Bull., 63 (2015), pp. 147-155,DOI: 10.1248/cpb.c14-00596


[6] T. Nakayama, E. Mizohata, T. Yamashita, S. Nagatoishi, M. Nakakido, H. Iwanari, Y. Mochizuki, Y. Kado, Y. Yokota, R. Satoh, K. Tsumoto, H. Fujitani, T. Kodama, T. Hamakubo, and T. Inoue, Structural features of interfacial tyrosine residue in ROBO1 fibronectin domain-antibody complex: Crystallographic, thermodynamic, and molecular dynamic analyses, Protein Sci., 24 (2015), pp. 328-340,DOI: 10.1002/pro.2619


[7] T. Yamashita, A. Ueda, T. Mitsui, A. Tomonaga, S. Matsumoto, T. Kodama, and H. Fujitani, Molecular Dynamics Simulation-Based Evaluation of the Binding Free Energies of Computationally Designed Drug Candidates: Importance of the Dynamical Effects, Chem. Pharm. Bull., 62 (2014), pp. 661-667,DOI: 10.1248/cpb.c14-00132


[8] T. Yamashita and H. Fujitani, On accurate calculation of the potential of mean force between antigen and antibody: A case of the HyHEL-10-hen egg white lysozyme system, Chem. Phys. Lett., 609 (2014), pp. 50-53,DOI: 10.1016/j.cplett.2014.06.028


■解説
[1] 京速コンピューティングによる創薬への挑戦: ポスト「京」時代に向けて 山下雄史 分子シミュレーション研究会会誌「アンサンブル」19(2) 81-87 (2017)

[2] 自由エネルギー計算の理論: 創薬応用を実現する定量的予測への挑戦 山下雄史 分子シミュレーション研究会会誌「アンサンブル」17(2) 83-91 (2015)

[3] 分子動力学シミュレーションの進化-タンパク質機能の解明からがん治療薬の設計まで 山下雄史、児玉龍彦 月刊「化学」 70(2) 33-38(2015)

■講師
分子シミュレーションスクール(岡崎)(2015年度) 「分子シミュレーションの創薬応用」
分子シミュレーション夏の学校(立山)(2016年度) 「タンパク質の分子動力学シミュレーションの基礎と新しい分子設計技術への応用展開」

■アウトリーチ活動
鳥栖高校・鳥栖西中学校特別授業(2015年12月3日)
 「スーパーコンピュータで挑戦する生命・分子・薬の科学」
東大駒場キャンパス公開2018 生命科学講演会 ー計測・情報科学をもちいた新しい生命科学の潮流ー(2018年6月8日)
 「理論物理学とスーパーコンピュータによる新しい分子バイオロジーと分子デザイン」

自己紹介

■経歴
2004年3月 京都大学大学院理学研究科博士課程修了
2004年4月 東京大学大学院総合文化研究科博士研究員
2007年4月 米国ユタ大学博士研究員
2010年4月 米国シカゴ大学博士研究員
2011年1月 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

■所属学会
・日本化学会
・日本物理学会
・分子科学会

■研究者に一問一答
・研究者になったきっかけは?
 「法則で未来を予測できるという面白さに魅かれて」
・研究の魅力は?
 「時々、世界で自分しか知らないことがあると思えること」
・研究でうれしかったことは?
 「自分の研究が、他のところで役立っているのを知ったとき」
・研究の意義、大切なこととは?
 「自分の知的好奇心。社会への貢献。」
・研究を成功させるカギは?
 「ねばる。ヴィジョン。」


(2018/8/31記録)

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