研究開発

タンパク質・リガンドの柔軟性を取り入れたシミュレーション法の開発
-拡張アンサンブル法の創薬応用-

(印刷用PDF:510KB)
写真:尾嶋 拓  尾嶋 拓(おしま ひらく)

 1981年生まれ、徳島県出身
 理化学研究所生命機能科学研究センター 研究員
 連絡先:hiraku.oshima[@]riken.jp
 個人ページ:http://www.riken.jp/TMS2012/bfs/ja/member/profile/hiraku_oshima.html


研究紹介

薬(リガンド)は標的となるタンパク質に結合することで機能を発揮します。例えば、ガン細胞内のタンパク質のATPが本来結合する場所にリガンドが結合することでガン細胞の活動を抑制します。タンパク質によく結合するリガンドの探索が新薬開発において重要であり、どのように結合するか(結合ポーズ)、どれくらい強く結合するか(結合親和性)の予測が必要となります。従来ではそれぞれドッキングと自由エネルギー摂動法というシミュレーション法で予測されていますが、リガンド・タンパク質の構造変化は限定的なため、予測精度には限界がありました。私が所属する理研杉田チームでは、レプリカ交換法などの拡張アンサンブル法を用い、リガンド・タンパク質の構造柔軟性を高めることで計算収束性と精度の向上を目指しています。私は、ポスト「京」を用いた創薬基盤の構築のために、分子動力学(MD)シミュレーションソフトGENESISに拡張アンサンブル法や自由エネルギー摂動法を実装し、創薬計算への応用を行っています。拡張アンサンブル法の1つであるレプリカ交換法とドッキングを組み合わせることで、計算収束性が大幅に向上することが明らかになっており、拡張アンサンブル法の有効性に期待を持っています。その他にも神経細胞膜上の受容体機能の解析や新しい拡張アンサンブル法の開発も行っています。


図:GENESIS解説

■研究分野
・生物物理学

■研究課題
・ポスト京でのMD高度化とアルゴリズム深化

■研究キーワード
自由エネルギー計算、分子動力学シミュレーション、リガンド結合

主要論文・活動実績
■主要論文
[1] Statistical Thermodynamics for Actin-Myosin Binding: The Crucial Importance of Hydration Effects, H. Oshima, T. Hayashi, and M. Kinoshita, Biophys. J., 110, 2496-2506 (2016),DOI: 10.1016/j.bpj.2016.05.006

[2] Essential roles of protein-solvent many-body correlation in solvent-entropy effect on protein folding and denaturation: Comparison between hard-sphere solvent and water, H. Oshima and M. Kinoshita, J. Chem. Phys., 142, 145103 (2015),DOI: 10.1063/1.4917075


[3] Finite Memory Walk and Its Application to Small-World Network, H. Oshima and T. Odagaki, J. Phys. Soc. Japan, 81, 074004 (2012),DOI: 10.1143/JPSJ.81.074004


[4] Storage capacity and retrieval time of small-world neural networks, H. Oshima and T. Odagaki, Phys. Rev. E, 76, 036114 (2007),DOI: 10.1103/PhysRevE.76.036114


自己紹介

■経歴
2004年 九州大学理学部物理学科 卒業
2006年 九州大学大学院理学府凝縮系科学修士課程 修了
2009年 九州大学大学院理学府凝縮系科学博士課程 修了 博士(理学)
2009年 京都大学次世代開拓研究ユニット 研究員
2011年 京都大学エネルギー理工学研究所 博士研究員
2013年 京都大学エネルギー理工学研究所 日本学術振興会特別研究員(PD)
2016年 理化学研究所生命システム研究センター 特別研究員
2018年 理化学研究所生命機能科学研究センター 研究員

■所属学会
・日本物理学会
・日本生物物理学会
・Biophysical Society
・日本蛋白質科学会
・CBI学会

(2018/8/31記録)

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