研究開発

薬の副作用を予測する

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写真:根上 樹  根上 樹 (ねがみ たつき)

 東京都出身
 東京大学大学院農学生命科学研究科
 アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット 研究員


研究紹介

 近年、UT-Heartとよばれる心臓シミュレータが開発され、理論的なモデルに基づいて心臓の動きを再現することが可能となりました。現在のUT-Heartでは心筋細胞の活動電位の伝播から心筋の伸縮運動に至るまでを数理モデルを用いて表現していますが、活動電位を制御するタンパク質である心筋イオンチャネルについて分子レベルの動作モデルを構築することができれば、薬剤の影響を理論的に反映させることが可能となり、不整脈などの副作用の予測といった創薬への応用が期待されます。私は、心筋イオンチャネルに対する薬剤の影響を数値化して動作モデルに反映するため、分子シミュレーションに基づいたイオンチャネルと薬剤の親和性予測に取り組んでいます。初めにイオンチャネルと薬剤のドッキング計算により複合体構造を予測した後、得られた構造を用いて分子動力学シミュレーションに基づく結合自由エネルギー計算を実行することにより、親和性の予測を行っています。心筋イオンチャネルの一種であるhERGチャネルについて、複数の薬剤の予測計算を行った結果、計算値と実験データの間に高い相関があることが確認されました。


図

■研究分野
・生命情報科学
・生物物理学

■研究課題
・粗視化分子動力学シミュレーションを用いたタンパク質–リガンド結合過程の解析(2010-)
・ウシ二量体グレリン受容体とGタンパク質 の相互作用部位の推定(2013-2014)
・心筋イオンチャネルと薬剤の間における結合親和性の予測手法の開発(2015-)

■研究キーワード
薬、タンパク質、分子動力学シミュレーション、心筋イオンチャネル

主要論文・活動実績
■主要論文
[1] Coarse-grained molecular dynamics simulations of protein–ligand binding
Tatsuki Negami, Kentaro Shimizu, Tohru Terada
Journal of Computational Chemistry, 2014, 35(25), pp 1835-1845, DOI: 10.1002/jcc.23693

[2] Overdominance Effect of the Bovine Ghrelin Receptor (GHSR1a)-DelR242 Locus on Growth in Japanese Shorthorn Weaner Bulls: Heterozygote Advantage in Bull Selection and Molecular Mechanisms
Masanori Komatsu, Yoichi Sato, Tatsuki Negami, Tohru Terada, Osamu Sasaki, Jumpei Yasuda, Aisaku Arakawa, Chikara Yoshida, Hideaki Takahashi, Aduli E. O. Malau-Aduli, Keiichi Suzuki, Kentaro Shimizu
G3: Genes, Genomes, Genetics, 2015, 5(2), pp 271-279, DOI:10.1534/g3.114.016105



自己紹介

■経歴
2010年 東京工業大学理学部化学科卒業
2012年 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修士課程修了
2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士後期課程修了(博士(農学))
2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット 研究員

■所属学会
・日本生物物理学会

■研究者になったきっかけ
図:研究者になったきっかけ

■研究の魅力
生命現象に関して、分子レベルで実際に何が起きているのかをシミュレーションを通じて理解できることが魅力の一つだと思います。生体内の多くの現象を担う分子であるタンパク質は多様な構造に基づいて様々な機能を有しており、計算科学的な手法を用いることで、実験から直接解明することが困難な分子レベルでのメカニズムの理解が可能となります。また、そうして得られた知見は創薬などの重要な応用にもつながり、やりがいを感じられます。

■研究を成功させるカギ
生命情報科学の分野では、情報の収集が重要と感じています。計算機の性能向上や計算手法の発展に伴ってシミュレーションの応用範囲が広くなっていることに加え、実験技術の発展により実験データの蓄積も加速しています。こうした中で、解決したい問題に対してどのような実験データや解析手法を用いるべきかを適切に判断するためには、文献調査や学会参加等により情報収集を行い、計算手法および実験原理の両方について適切に理解しておくことが重要と考えています。



(2018/8/31記録)

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