研究開発

実験と計算を連携させた、動きも考慮する
計算創薬技術の開発を目指して

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写真:  浴本 亨(えきもと とおる)

 横浜市立大学 生命医科学研究科 生命情報科学研究室 助教
 連絡先:ekimoto[@]yokohama-cu.ac.jp


研究紹介

 「京」等のスーパーコンピュータを使い、創薬標的タンパク質の機能発現メカニズムの解明に取り組んでいます。分子動力学シミュレーション(MD)を基礎技術として使い、タンパク質が働く溶液中での動きを解析しています。所属している研究室では、結晶構造解析、NMR、小角X線散乱実験(SAXS)等の実験の先生方と共同研究をするテーマが多く、そのノウハウを活かして、実験と計算を連携させた解析や手法開発を進めています。特に、SAXS実験と連携したMD-SAXS法を発展させて、「京」の大規模計算から得られる大量の溶液構造データを扱えるようにしたいと考えています。また、リガンド結合に伴って、タンパク質の構造変化が起きますが、その様子や、リガンドの種類によって違いがあるかどうかを明らかにしていきたいと考えています。また、結合自由エネルギー計算手法の開発にも取り組んでいます。計算速度と計算精度の両立が課題となりますが、電荷の強い系に対する高精度な計算方法を開発しました。計算速度の向上にも取り組んでいきたいと考えています。  ポスト「京」では、さらに大量のデータを扱う必要があるので、統計解析や機械学習の技術等を取り込んでいきたいと考えています。


図:MDSAX、WARPDRIVE

■研究分野
・生物物理

■研究課題
創薬標的タンパク質等の動的分子機能制御

■研究キーワード
生体分子シミュレーション、構造活性相関、 実験と計算を連携させた解析、結合自由エネルギー

主要論文・活動実績
■主要論文
[1] Elimination of Finite-Size Effects on Binding Free Energies via the Warp-Drive Method. Ekimoto T, Yamane T, Ikeguchi M. J Chem Theory Comput. 2018 Dec 11;14(12):6544-6559.DOI: 10.1021/acs.jctc.8b00280

[2] Apo- and Antagonist-Binding Structures of Vitamin D Receptor Ligand-Binding Domain Revealed by Hybrid Approach Combining Small-Angle X-ray Scattering and Molecular Dynamics. Anami Y, Shimizu N, Ekimoto T, Egawa D, Itoh T, Ikeguchi M, Yamamoto K. J Med Chem. 2016 Sep 8;59(17):7888-900. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.6b00682


■主要著書

Hybrid Methods for Modeling Protein Structures Using Molecular Dynamics Simulations and Small-Angle X-Ray Scattering Data. Ekimoto T, Ikeguchi M. Adv Exp Med Biol. 2018;1105:237-258. DOI: 10.1007/978-981-13-2200-6_15.


■活動実績

バイオグリッド スパコン創薬プロジェクトの活動を通して、企業の研究者とスパコンを使った計算創薬技術の研究を行っている。 ポスト京重点課題プロジェクトで研究を進めている手法を、リガンド結合/解離過程へ適用した結果を学会で発表。
・Protein-ligand binding process studied by Markov state model  浴本亨、荒木望嗣、井阪悠太、山根努、奥野恭史、池口満徳  情報計算科学生物学会2018年大会、タワーホール船堀、 2018年10月9日-11日


■学術関係受賞

・2017年6月 日本蛋白質科学会 第17回日本蛋白質科学会 若手奨励賞
・2018年12月 日本薬学会構造活性相関部会 SAR Presentation Award (Poster Presentation)


自己紹介

■経歴
2011年3月 九州大学大学院 理学府 物理学先行博士課程修了 博士(理学)
2011年4月 京都大学 化学研究所 博士研究員
2013年4月 横浜市立大学大学院 博士研究員、特任助教
2018年4月 横浜市立大学大学院 助教

■所属学会
・日本薬学会
・日本蛋白質科学会
・Biophysical Society
・日本物理学会

■研究者になったきっかけ
XXの隠された秘密、XXの事情、XXの必勝法などと、(現象を)支配している理屈のようなものを知ると得をした気になるので興味を持っていました。大学で、構成要素が集団になったときに見えてくる現象や、ミクロな要素からマクロな現象を説明する学問があるということを知り、面白そうだなと思って、その道の研究室を選んだことがきっかけとなりました。

■研究者になって感じたこと
食べ歩きは、自分の好きなように好きなだけできるので非常に楽しいのですが、いざ、自分の店を出して勝負するとなると、評価を受けるし、個性も出さないといけないし、少し、価値観が変わるような気がします。いざ、研究者になってみると、同じように、価値観を変えるような体験が多い気がします。自分の強みを模索しつつ、共同研究者やプロジェクトの興味・目標を理解しながら研究を進めていく機会が増えました。楽しいだけでなく、困難を協力して成し遂げるといった、やりがいのようなものを感じるようになりました。

■研究の魅力は?
訳のわからないことに挑戦できることに魅力を感じます。

■研究の意義、大切なこと、成功させるカギは?
だから何だ?、本質は何か?、新しさは何か?と、自問することを大切にしています。しかし、なかなか、自分だけでは気が付けないことも多く、いろいろな方とのコミュニケーションを通して学ぶことが多いです。特に、ポスト「京」重点課題プロジェクトでは、同じ分野で、年代の近い研究者と知り合える機会があるので、刺激をもらえます。研究を成功させるカギは、「成功させるんだ!」という信念だと信じています。

■研究で苦労したこと、うれしかったこと
研究は、疑問を持って、それに答えていくといった単純な行為の連続なのですが、必ず、わからないことが出てきて、どう突破するのか試行錯誤する時に苦労があります。また、突破できたとしても、俯瞰して考えてみると、完全でなかったり、矛盾があったりして、悩みます。ただ、いろいろとわかってくると、これまでの知見が有機的につながる瞬間があり、急に視界が開けて「わかったー」となったときに喜びを感じます。

■研究以外の楽しみ
旅行に行くのが好きです。
旅行先でリフレッシュ中の写真

写真:旅行  写真:一杯、一杯丁寧にドリップして味わいます。   写真:一杯、一杯丁寧にドリップして味わいます。
 


(2019/8/5記録)

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