広報・アウトリーチ活動

用語解説

分子力場

タンパク質や核酸、薬剤との複合体などの計算では溶媒も含めると数万から数十万原子が含まれる。量子化学に基づく第一原理計算は適用できないサイズであるため、経験的ポテンシャル(分子力場)などを用いた古典力学に基づく計算を行う。生体分子については、AMBER, CHARMM, OPLSなどの既存力場を用いる事が多い。

分子動力学計算

分子力場ポテンシャルを微分すると原子に働く力が解析的に得られるため、これを用いてニュートンの運動方程式を解くことで分子運動に関する情報を得ることができる。タンパク質の分子運動、タンパク質と薬剤の相互作用の解析など多くの用途で使われている。

拡張アンサンブル法

通常の分子動力学計算は温度体積一定あるいは温度圧力一定の条件で行われるが、計算時間が十分でない場合に初期位置に依存する計算結果が得られることが多い。この問題を解決するために、もともと物性物理で開発された拡張アンサンブル法が生体分子シミュレーションでも良く使われるようになった。ここでは、エネルギー空間の一次元酔歩を行うことでエネルギー極小値に留まることを避け、広い構造空間の探索と正確な熱力学パラメタの導出が可能となる。様々な方法が提案されているが、レプリカ交換分子動力学法が現在は最も良く使われている。

ハイブリッドQM/MM自由エネルギー法

酵素反応活性中心や基質結合部位などの高精度な記述が必要な部分を、量子化学的(QM)手法を用いて表し、その周りの大きなタンパク質部分の影響を古典的な分子力場を用いた分子力学(MM)法で表す手法が、いわゆるハイブリッド QM/MM 法である。本手法では、従来の QM/MM 法では記述が困難であったタンパク質の熱揺らぎや大きな構造緩和を考慮した自由エネルギーに関してQM 部分のエネルギーと構造の精密化を行う。

粗視化モデル

粗視化モデルとは、全原子力場モデルを元に分子の特性を表す本質的な自由度のみを持つ簡略化した分子モデルを指す。一般に簡略化によって再現可能な物性量に限界が生じるが、注目する物性量に合わせた粗視化の手続きを踏むことにより、その目的の物性値の精度を下げずにサンプリング効率を格段に向上することができる。全原子モデルでは不可能な長時間、長距離で起こる構造変化などを観測する有効な手立てとして利用される。

創薬計算フロー

医薬候補化合物を、コンピュータによってデザインするためのワークフロー。一般に、①標的タンパク質の立体構造モデリング、②有機化合物ライブラリからの候補化合物の探索、③標的タンパク質との結合親和性の向上や副作用の軽減を目的とした候補化合物の構造最適化(hit to lead)などからなる。

バーチャル化合物

コンピュータ上で発生させた仮想化合物。一般に、製薬企業等が保有する化合物数は~104程度である言われているが、バーチャル化合物は分子量500以下に限定しても1060種類以上存在すると見積もられている。

化合物ライブラリー

大規模な化合物セットのことを総称して化合物ライブラリーと呼び、医薬品候補化合物の探索のソースに用いられる。

リード化合物

創薬標的タンパク質に対して高活性を示す医薬品候補化合物。一般に標的タンパク質への結合活性以外に、ターゲット選択性や薬物動態の点でも一定の基準を満たしていることが求められる。リード化合物を更に改良する事で、十分な薬効、安全性を有する最終的な医薬品となる。

Hit to Lead

ハイスループットスクリーニングなどの初期段階の化合物探索で得られた低活性化合物のことをヒット化合物(Hit)と呼び、ヒット化合物の化学構造を変換することで高活性のリード化合物(Lead)を創製する過程のことで、構造最適化とも言う。ヒット化合物を効率的に構造最適化するための合理的な分子設計手法は未だなく、実際の創薬現場では有機合成と活性評価実験による試行錯誤が繰り返されており、開発のボトルネックとなっている。

化学構造変換手法(De novo、FBDDなど)

創薬シード化合物に対して、コンピューター上で化学修飾や部分構造置換を施す事で、その化学構造を変換するための手法。De novoデザインとは、既知の化合物情報などを用いずに新規の化学構造をデザインすることであり、 FBDD(Fragment Based Drug Design)は部分構造フラグメントを結合することで化学構造をデザインする方法である。

ホモロジーモデリング

アミノ酸配列に相同性(生物学的に意味のある類似性)のあるタンパク質で、立体構造が分かっているものを鋳型として、構造が未知のタンパク質の立体構造をコンピュータで予測する手法。ほかの予測法と比較して、予測精度や計算時間の面で優れており、構造データベースが充実するに従って予測可能なタンパク質数が加速度的に増加している。

ドッキング計算

コンピューター上にタンパク質と化合物の立体構造モデルを再現し、結合状態を予測する計算手法。一般に、計算コストが低く、比較的簡便に結合ポーズが取得できるものの、タンパク質を剛体近似しているために予測正答率はあまり高くない。

ADMET

生体内における薬物の吸収、分布、代謝、排泄、毒性に関わる特性を指す。薬物の有効性と安全性を担保する上で、ADMETを正確に見積もることは非常に重要である。

アッセイ情報

生物活性評価実験(アッセイ実験)によって得られる化合物の活性情報のこと。

オミクス

遺伝子を包括的に解析や研究する分野をゲノミクスと呼び、タンパク質を包括的に解析や研究する分野をプロテオミクスと呼ぶ。その他、mRNAを対象にした分野をトランスクリプトミクス、代謝産物を対象にした分野をメタボロミクスなどと呼び、これら生体内情報を包括的に扱う分野のことをオミクスと総称している。

パスウェイ情報

生体にある個々の分子は細胞内で孤立しているのではなく、分子同士が相互作用してネットワークを形成する事で個々の機能が発揮され、生命活動を可能にしている。生命活動に必要な指令(シグナル)は、一定の分子集団から構成されるパスウェイ上に沿って伝達されるが、一つのパスウェイに何種類の分子がどのように関わっているかというパスウェイ情報を実験的に取得する事は容易ではない。このため、膨大なオミクスデータの情報科学的解析によってパスウェイ情報を解明する事が期待されている。

X線小角散乱(Small-Angle X-ray Scattering=SAXS)

X線を試料物質に照射し、散乱されたX線のうち散乱角が小さい領域(~5°)を計測することで物質の構造情報を得る手法。タンパク質を解析する場合は、基本的に溶液中に溶けている状態を計測するため、より生体に近い状態の構造情報を得られる。

X線結晶構造解析

タンパク質などの分子の結晶を作製し、照射したX線の散乱パターンを解析することで分子の立体構造を決定する手法。

プロテオーム解析

プロテオームとは、ある生物の系(組織、生物体、細胞など)において存在しているタンパク質の総体のこと。ある研究系でその差をみるとき(例えば正常細胞とがん細胞)に、ある特異的なタンパク質の挙動に注目するのではなく、タンパク質の総体の変化を解析することをプロテオーム解析と呼ぶ。

メタボローム解析

計測可能な代謝産物群の一斉解析法。

構造ゲノム解析

生体内の全タンパク質の立体構造を解析することによって、立体構造と機能の関係を明らかにし、ミクロな視点から生体反応や生命現象を理解しようとする手法。

マルコフ連鎖モンテカルロ法

望みの確率分布に従う確率変数をコンピューター上で発生させるための手法。

TOP