計算生命科学の基礎
生命科学と理工学の接点をなす計算生命科学の研究を進めていくための基礎講座として神戸大学計算科学教育センターと連携し、学生、大学院生、社会人を対象とした連続講座を公開します。 詳細は神戸大学計算科学教育センターのホームページをご覧ください。 |
(707KB) |
参考:2015年度「計算生命科学の基礎Ⅱ」のアーカイブ、アンケート結果
計算生命科学の基礎Ⅲ 生命科学と理工学の融合による生命理解と医療・創薬への応用[全15回]
日程
2016/10/4(火)~ 2017/1/24(火) 毎週火曜日 17:00~18:30場所
神戸大学計算科学教育センター セミナー室208(神戸大学統合研究拠点2階)〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町7丁目1番48 ポートライナー「京コンピュータ前」駅下車すぐ
(学外からはインターネットによる受講が可能)
対象
大学生、大学院生・ポスドク、大学教員、研究所・企業の研究者講義趣旨
生命科学の近年の急速な進歩は計算機科学、統計学、シミュレーション科学等によって大きく支えられています。コンピュータを活用する計算生命科学は、DNAに記されたゲノム情報、タンパク質の配列・構造情報、健康・医療情報などからなるビッグデータを解析し、システム統合やシミュレーションを使った予測により生命を理解し、さらには医療応用につながる重要な学際領域のひとつです。生命科学は理工学研究者にとって研究シーズの宝庫であり、データサイエンスやシミュレーション科学、そして人工知能技術を基盤にした応用研究で活躍が期待される舞台でもあります。このプログラムでは、CBI学会、日本バイオインフォマティクス学会の企画協力を得て、生命科学と理工学の学際的研究領域である計算生命科学に興味をお持ちの多くの受講生の方々に、広くその基礎と展望を学んで頂き、基礎教育から研究開発を支える人材の育成を目指しています。担当講師
森 一郎(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授)清水 厚志(岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構 特命教授)
山田 亮(京都大学大学院 医学研究科 附属ゲノム医学センター 統計遺伝学分野 教授)
木下 賢吾(東北大学大学院 情報科学研究科 生命システム情報科学 教授)
石田 貴士(東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 准教授)
佐藤 文俊(東京大学生産技術研究所 教授)
北浦 和夫(京都大学福井謙一記念研究センター 研究員)
鷹野 優(広島市立大学大学院 情報学研究科 医用情報科学専攻 教授)
広川 貴次(産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター 研究チーム長、筑波大学 教授)
福西 快文(産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター3D分子設計チーム 研究チーム長)
本間 光貴(理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター チームリーダー)
都地 昭夫(塩野義製薬株式会社 解析センター グループ長)
北西 由武(塩野義製薬株式会社 解析センター サブグループ長)
水口 賢司(医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト プロジェクトリーダー)
山川 宏(ドワンゴ人工知能研究所 所長)
宮田 満(日経BP社 医療局特命編集委員)
コーディネーター
木下 賢吾(東北大学大学院 情報科学研究科 教授)田中 成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科 教授)
森 一郎(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授)
渡邉 博文(神戸大学連携創造本部 特命講師)
鶴田 宏樹(神戸大学連携創造本部 准教授)
近藤 洋隆(神戸大学計算科学教育センター 学術研究員)
江口 至洋(神戸大学連携創造本部 客員教授)
講義内容
◆2016.10.4
はじめに 計算生命科学の概要
森 一郎(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授)
生物学、医学・薬学、農学等の生命科学の研究は、急速に進歩しつつあるコンピュータや IT 技術、情報科学との融合により、計算生命科学という学際的な領域を築きつつある。ビックデータ解析技術、そして人工知能研究の進展がさらにその流れを加速している。本講義では、核酸やタンパク質の分子レベルの基礎研究から医療・創薬への応用までの例を取り上げながら、講義全体の導入紹介を行う。
第1編 バイオインフォマティクス
【参考図書】 1.藤 博幸「タンパク質の立体構造入門―基礎から構造バイオインフォマティクスへ 」講談社(2010) 2.日本バイオインフォマティクス学会 (編集)「バイオインフォマティクス入門」慶應義塾大学出版会(2015) 3.岡谷 貴之「深層学習 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)」講談社(2015) |
◆2016.10.11
「ゲノムに記された遺伝ビッグデータを読む -ヒトゲノム計画から大規模個人ゲノ
ム解読時代の到来まで-」
清水 厚志(岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 特命教授)
2003年に完了したヒトゲノム計画ではヒトの参照配列を構築するまでに13年もの月日と数千億円以上の予算を要した。現在ヒト1人のゲノムはわずか数日、20万円以下の予算で解読が可能である。本講義ではヒトゲノム計画から現在の個人ゲノム解読の時代までの歴史と次世代シークエンサーによる解析の概要について紹介すると共に、ゲノム解読の課題についても議論したい。
◆2016.10.18
「ゲノム情報からの生命現象・病理現象の統計解析」
山田 亮(京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学センター 統計遺伝学分野 教授)
ゲノムを含めた各種オミクスデータから有用な情報を読み取るために様々な統計解析・データマイニングのアプローチがなされている。本講義では、遺伝統計学の基礎的な考え方である、ジェノタイプとフェノタイプの捉え方を概説するとと
もに、現在のゲノム・オミクスデータの統計解析手法の現状と課題を俯瞰した上で、多重検定問題、高次元データへの対応、ハイスループット実験データの取り扱い、異種データの統合に焦点を当てて説明する。
◆2016.10.25
「ゲノム・タンパク質のバイオインフォマティクス入門」
木下 賢吾(東北大学大学院 情報科学研究科 生命システム情報科学 教授)
ゲノムからタンパク質を介して表現型に至るまでの情報の流れを概観するとともに、デジタル情報であるゲノム情報がアナログ情報である表現型に変換されるタンパク質に着目して、バイオインフォマティクス的視点でタンパク質配列情報・構造情報の取り扱いを解説する。また、昨今急激な勢いで増加しているヒトゲノムの変異情報における低頻度変異の解釈にタンパク質立体構造情報を利用する可能性について最近の研究を紹介する。
◆2016.11.1
「人工知能研究と生命科学 -ディープラーニングのバイオテクノロジーへの応用可能性-」
石田 貴士(東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 准教授)
ディープラーニングに代表される人工知能研究の進展は、画像、音声認識の分野を超え、より高度な知見が必要となる生命科学分野でも注目を集めつつある。本講義では、ディープラーニングを含む機械学習の数理的基礎について簡単な説明を行い、さらに近年の生命科学分野でのそれらの応用について紹介する。
第2編 構造生命科学のための分子シミュレーション
【参考図書】 1.柏木浩(著・監修)「タンパク質密度汎関数法」森北出版(2008) 2.“The Fragment Molecular Orbital Method: Practical Applications to Large Molecular Systems”, Eds., D.G.Fedorov, K.Kitaura, CRC press, Boca Raton, 2009. 3.神谷成敏・肥後順一・福西快文・中村春木(著)「タンパク質計算科学:基礎と創薬への応用」共立出版(2009) 4.myPresto/ sievgeneの設計仕様書 http://www.jbic.or.jp/enterprise/result/001.html 5.生物物理 Vol. 51(2011) No. 6 通巻298号 http://www.biophys.jp/dl/journal/51-6.pdf |
◆2016.11.8
「計算生命科学のための量子化学基礎」
佐藤 文俊(東京大学生産技術研究所 教授)
「量子力学によって物理学や化学が取り扱う多くの分野で基礎となる法則が明らかになった」と言われている。しかし、法則が明らかになったことと、現実の研究の場にその法則を適用することとの間には多くの困難な問題が潜んでいる。本講義ではその困難を乗り越える前準備として、構造計算生命科学に必要十分な範囲で、わかりやすく量子化学の基礎を紹介する。分子動力学法にのみ興味がある方も、導入として受講されると良いだろう。
◆2016.11.15
「フラグメント分子軌道法の基礎と応用」
北浦 和夫(京都大学福井謙一記念研究センター 研究員)
タンパク質の丸ごと計算が可能なフラグメント分子軌道(FMO)法について、基礎と応用について講義する。FMO法は、分子を小さなフラグメントに分割して計算する方法であり、全系のプロパティに加えて、リガンドと各アミノ酸残基間の相互作用を解析できる。これから得られるリガンドの結合様式についての知見は、医薬品分子の設計に有用であると期待されている。本講義では、FMO法の基礎と医薬品分子設計への応用例を紹介する。
◆2016.11.22
「QM/MM法を用いたタンパク質機能解析」
鷹野 優(広島市立大学大学院 情報学研究科医用情報科学専攻 教授)
タンパク質は巨大かつヘテロな系であり、機能を有効に発揮できるように、その「かたち」を変化させる。タンパク質機能の理解・予測に、機能発現に関わる局所部分(活性中心)には量子力学(QM)を、活性中心を取り囲むタンパク質の「かたち」の変化には古典力学(MM)を適用したQM/MM法は極めて有効である。本講義ではQM/MM法の理論背景からはじめ、タンパク質の機能解明への応用について紹介する。
◆2016.11.29
「分子シミュレーションを活用した創薬支援技術」
広川 貴次(産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター 研究チーム長、筑波大学 教授)
スーパーコンピュータ「京」に代表されるような大規模計算環境の発展と分子動力学計算を中心とした分子シミュレーション技術が相俟って、インシリコ創薬による開発プロセスの効率化と革新的な創薬支援が期待されている。特に、分子動力学計算は、標的タンパク質の動的構造の解析、高精度結合自由エネルギー計算、化合物作用機序解析などに活用されており、創薬支援研究に欠かせない要素技術となっている。
本講義では、分子動力学計算を活用したインシリコ創薬を概説し、国内外の動向、そして実際の活用事例などを紹介する。
◆2016.12.6
「ドッキングソフトの原理と実際」
福西 快文(産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター3D分子設計チーム 研究チーム長)
蛋白質など受容体への低分子のドッキングソフトは、薬物探索、分子設計で核となる技術であり、過去に開発されたドッキングソフトは約50、現在は市販品数種類と無償ソフトが数種類存在する。低分子ドッキングソフトの原理を、現在、製薬企業など30社で使われている国産ソフトmyPresto/sievgeneを中心に、分子間相互作用などから紹介する。また、低分子ドッキングソフトの応用事例を紹介する。
第3編 計算生命科学の最前線
【参考図書】 1.Toby Segaran著「集合知プログラミング」 オライリージャパン(2008) 2.伊庭斉志著「計算と深層学習」オーム社 (2015) 3.米田悦啓、堤 康央、石井 健編「生命科学から創薬へのイノベーション」第12章 南山堂(2014) 4.松尾 豊 「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」 角川EPUB選書(2015) 5. セバスチャン・スン「コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出す のか」 草思社(2015) |
◆2016.12.13
「創薬における計算生命科学:インフォマティクスとシミュレーションを融合したインシリコスクリーニングと設計」
本間 光貴(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター チームリーダー)
近年の創薬において、タンパク質-リガンド間のドッキングによるインシリコスクリーニングは無くてはならないものとなっている。また、現場の創薬ではヒットが得られた後の活性やADMETプロファイルの向上を目指した設計も重要である。本講義では、インシリコスクリーニングの精度を向上させるためのポイントについて説明するとともに、ヒットが得られた後の設計手法について開発中のものを含めて紹介する。
◆2016.12.20
「製薬企業におけるデータサイエンス」
都地 昭夫(塩野義製薬株式会社 解析センター グループ長)
北西 由武(塩野義製薬株式会社 解析センター サブグループ長)
個人が自ら情報発信,検索を行う時代となり、検索エンジンやSNSの活用による知識獲得が可能となってきている。これらをマクロ的に捉え,医薬品開発に活かすことも検討され始めている。そこで、昨今注目を集めるIoT、ビッグデータ利活用や人工知能に関する話題から始め、ビッグデータに特徴的な統計解析アプローチや自然言語処理など近年急速に発展を遂げている技術などを製薬企業における事例を交えながら解説する。
◆2017.1.10
「計算生物学によるシステムの理解からの創薬への展開」
水口 賢司(医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト プロジェクトリーダー)
現在の創薬では、疾患に関わる多数の生体分子やその反応を「機能を生み出す一つのシステム」として理解し、それに基づく標的の同定や医薬品候補化合物の設計が求められている。そのために、異なった実験手法や対象からの多様なデータを統合し、生命システム全体をネットワークとして捉える計算システム生物学的アプローチについて、基礎的な方法論と具体的なプロジェクトへの応用の両面から概説する。
◆2017.1.17
「全脳アーキテクチャ・アプローチ:脳全体のアーキテクチャに学び人間のような
汎用人工知能の構築を目指す」
山川 宏(ドワンゴ人工知能研究所 所長)
人のように多様なタスクを柔軟に獲得する汎用人工知能(AGI)の開発は計算機発明直
後からの夢だが、乳幼児が発達段階で獲得する非言語的な知能は設計できなかった。
近年の計算リソースの増大に伴い、脳を参考にした深層学習が実用化されて、子供の
知能をデータから獲得できるようになった。そこでこれを明らかになりつつある脳全
体像を参考にして組み上げることでAGIの構築を目指すのが全脳アーキテクチャと
いう研究アプローチである。
◆2017.1.24
「計算生命科学がもたらすものへの期待」
宮田 満(日経BP社 医療局特命編集委員)
生命科学と計算科学との融合により、計算生命科学という多様な学際分野が展開され、そしてビッグデータ収集・解析技術や人工知能研究の進展がその流れをさらに加速している。その現状とこれからの実社会へのインパクトを最近の事例を交えて解説する。
申込方法
聴講無料申込みは→こちら
受講方向
講義は神戸大学計算科学教育センターで行います。また、インターネットを通じて中継する会議システムWebEXを使用して配信をします。申込みをすれば直接セミナー室で受講する以外にどこからでもオンライ受講が可能です。WebEX基本接続方法と受講にあたっての注意事項は→こちら
詳細は神戸大学計算科学教育センターのホームページをご覧ください。主催・共催・後援
【主催】 | 神戸大学 計算科学教育センター |
【企画協力】 | CBI学会、日本バイオインフォマティクス学会 |
【共催】 | 神戸大学連携創造本部、理化学研究所生命システム研究センター ポスト「京」重点課題(1)、産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター、理化学研究所 計算科学研究機構、公益財団法人計算科学振興財団 |
【後援】 | 兵庫県、神戸市、公益財団法人都市活力研究所、NPO法人バイオグリッドセンター関西 |